ノルウェイの森

 村上春樹の作品は『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』以来だった。この作品はベストセラーだったこともあり、文学にしてはとても読みやすい作品となっている。さらさらと文章の流麗さの波に流されるようにして読了した。

 この作品は「喪失」を描いている。主人公は、魂のかたわれとも言うべき存在を失う。その心理描写が、切なく、美しく、それでいてとても悲しい。読了した後しばらく『ノルウェイの森』の世界に浸ることができる、そういう描写だった。

 俺としては一番始めにあるルフトハンザ航空で主人公が思い出す直子との思い出のシーンが好きだ。このシーンは難解で、この作品の中では一番読みづらい部分だろう。しかし、ひどく純粋で、切なく、心を打つシーンだ。このシーンの情景を思い浮かべている限り、俺は日常から離れた美しい文章の世界に浸っていることができる。そう思った。

 この作品は多くの人が言っているように、大学生のとき読むといい。それは、大学生独特の乾いた雰囲気がよく出ているからである。この雰囲気は実際に大学生活を送っている人でないと心から共感することはできないだろう。そして、いつの時代も大学生が感じる日常への乾いた、冷めた感じが『ノルウェイの森』がいつまで経っても古い作品だと感じない一因なのかもしれない。

 読みやすいので、村上春樹の作品を初めて読む、という人にお勧めする。